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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6262号 判決 1979年4月20日

原告

古賀節子

右訴訟代理人弁護士

内田剛弘

森谷和馬

被告

学校法人慈恵大学

右代表者理事

名取禮二

右訴訟代理人弁護士

高橋明雄

片山和英

右二名訴訟復代理人弁護士

大塚明良

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告の東京慈恵会医科大学附属病院の6A病棟に勤務する看護婦の地位にあることを確認する。

2  被告は原告に対し、二、〇〇〇円とこれに対する昭和五二年七月一四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2項につき仮執行宣言

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  当事者の地位

(一) 被告は私立学校法に基づいて設置された学校法人であって、東京慈恵会医科大学をはじめとする学校を設置し、右大学附属病院(本院、以下単に附属病院という。)ほか二つの病院を経営している。

(二) 原告は昭和四五年に慈恵青砥高等看護学院(以下単に高等看護学院という。)に入学し、同四八年に同学院卒業後被告と雇用契約を結び、基礎実習後、右附属病院外科の入院患者のための病棟である6A病棟に看護婦として配属され、以後同五二年三月に至るまで終始6A病棟における看護婦業務を行なってきた。

二  原告の組合活動歴等

(一) 原告は附属病院に勤務後の同四八年九月から、附属病院の職員及び看護婦で組織する東京慈恵会医科大学労働組合港支部(以下単に組合という。)に加入し、同年一一月一時金闘争で他の職権の(ママ)組合員と共に通路でのビラまき活動をしたのをはじめとして同四九年四月には春闘決起集会に参加、発言し、同年九月には職場委員に就任し、職場集会に出席して看護婦の労働条件について発言するなど活発な組合活動を行なってきた。

(二) 原告の所属する組合は附属病院の職員及び看護婦約一、〇〇〇名中約三〇〇名の組合員で組織しているが、その構成員は殆んど職員であって事務系職員の組織率が約九〇パーセントであるのに対し、原告ら看護婦の組合員は、全看護婦約六〇〇名中僅か九名にすぎない。そして、組合所属の看護婦は病棟勤務から他の職場へ漸次配転され、最後に原告のみが病棟の勤務を続けてきた。しかも原告の勤務場所である6A病棟においては、原告の後輩である看護婦が学生指導の担当とされ、また副主任に昇格するなどの待遇を受けているにも拘らず、原告には一切これらの処遇をしないという差別的取扱いが行なわれてきた。

三  配置転換命令と減給処分

(一) 同五二年四月二日、被告は原告に対し原告の勤務している6A病棟の婦長高野一恵(以下単に高野婦長という。)を通じ、口頭で中央滅菌材料室(以下単に中材室という。)へ配置換えされる予定である旨を伝え、同月一一日再び同婦長を通じて口頭で五月の連休明けより中材室で勤務せよとの配転を命ずる意思表示(以下単に本件配転命令という。)をした。これに対し、原告は同婦長及び附属病院の総看護婦長である訴外温井みさ(以下単に温井総婦長という。)と数回にわたって面談し、突然の配転命令の理由を尋ね、6A病棟での勤務を続けたいとの希望を述べたが、右温井総婦長らは配転の理由について何ら明確な説明をせず、また原告の希望を聞き入れる様子もなかった。

(二) 中材室は病院での手術、検査、一般診療に使用する注射器・ガーゼ・メス・鑷子(ピンセット)等の諸器材を洗浄・消毒するために設けられており、患者と直接に接触する機会は殆どない職場である。またこの様に専ら器材を扱うという業務内容から各部門に責任者として置かれている婦長及びその補助者である主任を除けば、原告の様な看護婦を配置する必要性がなく、また実際にも原告が配転を命ぜられるまで婦長・主任以外の看護婦は置かれていなかった。そしてその業務内容の独立性・特異性から、ここに勤務する看護婦・職員は他の病棟勤務者と行き来することも少なく、更に夜間勤務もないため病棟の勤務から移ると夜勤手当分が大幅な減収になるなど様々な面で特殊な性格をもつ職場である。

(三) 原告は本件配転命令の理由が不明であり、病棟勤務の組合員看護婦が原告一人であることから、被告が原告の6A病棟での積極的な組合活動を嫌悪し、他の看護婦・職員への影響が少なく、本来の看護婦業務の行なえない中材室へ移そうとする不利益取扱であると考え、連休明けである同年五月六日以降も従来通り6A病棟へ出勤して通常業務を行なっていた。ところが、同月一〇日に至って温井総婦長より口頭で減給処分とする旨の通告を受け、更に6A病棟での就業を続ければより重大な処分を受けるおそれがあったため、同月二三日からやむなく中材室での勤務を行なっている。

右の減給処分につき被告は、同年六月七日原告の右6A病棟での就労が就業規則第一〇一条第一項の「職務上の指揮命令に対し不当に従わず再三警告を受けても之に反抗するとき」に該当するとして、原告の同月分給与から二、〇〇〇円を減給処分とする旨の通告(以下単に本件減給処分という。)を書面で行ない、原告の六月分給与から二、〇〇〇円を減じて原告に同月分給与を支給した。

四  本件配転命令及び本件減給処分の違法性

(一) 本件配転命令は原告と被告間の雇用契約に違反し無効である。

即ち原告は昭和四八年四月に被告の附属病院に勤務するに際し、就労場所及び職務内容については、原告が高等看護学院三年修了の看護婦としての知識、経験を生かすことのできる通常の看護婦業務に従事することを前提として被告との間で雇用契約を締結した。しかるに本件配転先である中材室は前記のとおり専ら病院で使用する各種器材の洗浄・消毒等を行なう部門であって、患者との接触もなく、看護婦としての特殊専門的な知識・経験・技能は全く必要とされない職場である。その構成員をみても、一般病棟では全体の約二〇分の一の割合で配置されているにすぎない看護助手が約二分の一を占めている。また、原告がやむなく中材室へ勤務する様になっても、具体的な仕事の説明は看護婦の資格を持たない看護助手や補助作業者から受ける有様であり、原告の看護婦としての知識・経験・技能を発揮する余地は全くないと言っても過言ではない。

原告は被告の附属病院において四年間にわたり、6A病棟で看護婦としての本来的業務に従事してきたのであるから、原告にとっては前記の様な特異な職場である中材室での勤務はその内容において重大な職種変更であり、原告の同意なくして一方的に配転を命じることは雇用契約に違反し許されないというべきである。

従って本件配転命令は雇用契約に違反し無効である。

(二) 被告の行なった本件配転命令は、被告が原告の6A病棟での積極的な組合活動を嫌い、勤務条件等で最も問題が多く、また、他の看護婦・職員に対する問題提起・呼びかけ等の組合活動を行ない易い6A病棟から原告を遠ざけて原告及びその他の組合員の組合活動を減殺しようとの目的から看護婦を増員する必要もないのにことさら原告を中材室という特殊な職場へ追いやろうとしてなされたものである。被告の人事異動の責任者である温井総婦長は原告が組合員で積極的な組合活動を行なってきたことを熟知しながら、また原告の意向も打診することなく本件配転命令を発したのであってこれによって原告は従来の積極的な組合活動に支障をきたすのみならず、病棟勤務の看護婦として長年にわたって培ってきた知識・経験・技能を生かすべき仕事を奪われ、また病棟勤務を続けて看護婦の本来的業務に一層習熟する機会も失うことになり、更に収入の面においても夜勤手当相当分の減収を被るなど多くの不利益を強いられる。

従って本件配転命令は労組法七条一号に該当する不当労働行為であって無効である。

(三) 本件減給処分は右(一)、(二)のとおり違法な本件配転命令を原告に強要し、これに従わないことを理由としてなされたものであるから懲戒権の濫用であり無効である。

五  よって原告は原告が被告の東京慈恵会医科大学附属病院の6A病棟に勤務する看護婦の地位にあることの確認と昭和五二年六月分給与の未払分二、〇〇〇円とこれに対する履行期経過後であることが明らかな同年七月一四日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する被告の認否と主張)

一  請求原因一の(一)、(二)の各事実は認める。

二  同二の(一)の事実中附属病院の職員で組合に加入している者があることは認め、その余の事実は知らない。

同(二)の事実中附属病院の看護婦が約六〇〇名であること、及び6A病棟において原告の後輩看護婦で学生指導の担当となっている者があることは認め、職員の組合組織率については知らない。その余の事実については否認する。組合の構成員は附属病院の職員だけでなく、被告の法人事務局の職員らも含まれ、これら職員の総数は約一、四〇〇名であり、内組合加入者は三〇〇名をこえている。附属病院では学生(指導)係、或は副主任等は各人の適性、能力、勤務状況をみて担当させているから年功序列どおりに指名されないことがあるのは当然であり、これをもって差別的取扱いとはいえない。

三  同三の(一)の事実中高野婦長が本件配転命令を伝えたのが同年四月一一日であるとの点及び原告と温井総婦長らとの面談の内容については否認し、その余の事実は認める。高野婦長が勤務交替を命じたのは同月一二日であり、また温井総婦長らは原告と面談した際、後記被告主張のとおりの人員配置の基準や中材室の業務の内容を述べ、本件配転命令が原告との雇用契約内のものであり、附属病院における適正な人員配置の必要性に基づくものであることを説明したが、原告はこれを聞き入れようとしなかったのである。

同(二)の事実中、中材室が病院での手術、検査、一般診療に使用する器具を洗浄・消毒するために設けられ、患者と直接に接触する機会が殆どない職場であるとの点は認め、その余の事実は否認する。中材室の業務は器具類の単なる消毒ではなく医療器機、材料を滅菌し、これを保管して他の医療部門へ供給することであり、看護婦の業務に属し、この医療器機等の交換のため、一日二、三回は他部門の看護職員と接触の機会があり、また、夜勤がないのは外来勤務も同様であるから中材室が特殊な性格をもつ職場とはいえない。

同(三)のうち、原告が同年五月六日以降も6A病棟に出入りし、同月二三日から中材室に勤務をはじめたこと、及び被告が同年六月七日原告の行為が就業規則第一〇一条第一項に該当するとして本件減給処分を行なう旨通知し、同月分給与から二、〇〇〇円を減じたことは認め、その余の事実は否認する。

四  被告の主張

(一) 被告大学では毎年四月の大量の新規採用者の配置に並行して行なわれる四月から五月にかけての配転のほかに、春の一時の大量の異動による業務遅滞を避けるため九月から一〇月にかけても相当数の配転を定期的に行ない、また、退職者、長期病欠者等により著しく業務の支障が生じた場合にも随時、配転を行なっている。新規に看護婦を採用する場合には、被告大学の看護婦として採用し、これを附属病院の本院、青戸分院、狛江・第三分院に配属し、各病院の総婦長が各科に配属しているが、担当の業務に習熟した二年後(或は三、四年後)に1各科病棟等の業務の必要に基づき適正な人員配置を図る、2被告大学の教育計画に基づき各人に広範囲の知識、経験を身につけさせる、3各看護婦の公平並びに各科の人事の交流を図るなどを目的、基準として配転をしており、約六〇〇名の看護要員(看護婦約三九〇名、准看護婦約二一〇名)についてそれぞれの個別的な事情も検討、考慮しながら実施するのであるから各人の希望に合致しない場合があることはやむを得ないところである。本件配転の行なわれた昭和五二年度の附属病院の異動についてみても四月における看護婦、准看護婦の新規採用者は総計一八六名に及び、この新配置に伴ない行なわれた既配置看護婦、准看護婦の配転は同年四月から五月にかけて四八名、九月から一〇月にかけて二〇名、その他の時期の配転四一名に及んでいる。

原告は昭和四八年四月から同五二年三月まで四年間6A病棟に勤務していたので右(一)の配置基準、目的により春の定期異動として中材室勤務を命ずることになったのであって、同室は夜勤がなく、従って夜勤手当もないが、それも職員全体の公平の見地の中に当然考慮されているのである。

(二) 中材室の業務は従来各病棟、外来毎に行なっていた通常の看護業務の一部である。滅菌に関する業務、或は滅菌管理は院内感染の防止と患者の安全に欠くことのできない看護婦の業務であって、同室で扱う器具、材料は近年の医学、医療の進歩に伴なって多種多様であり、その材質に適した滅菌法、請求を受けた器具材の選定など同室勤務の看護婦にも的確な判断が要求されている。とくに救急処置にはさまざまな医療材料、器具が必要であるが、それらの使用方法、組立て、連結方法、素材の滅菌処理方法などが正しく理解されていなければならないところであってそれらを学んでより的確な判断、看護行為ができるようにと配慮して原告を中材室に配置したものであり、いうなれば看護職員が当然に受ける院内研修の機会でもある。これらの点を考慮し、中材室にはこれまでも他の看護単位(病棟、手術室、外来室)と同様に病院全体の調整を行ないながら中材室必要の人員として婦長のほかに二、三名の看護婦、准看護婦を配置してきたのである。

(三) 以上のとおり本件配転命令は業務上の必要性のもとに原告被告間の雇用契約の範囲内でなされたものであるから原告本人の同意を要するものでもなく、不当労働行為でもない。また、本件減給処分は本件配転命令に従おうとしない原告に対して就業規則の各条項を適用してなされたものであるから懲戒権の濫用ではない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因一(当事者の地位)の(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこでまず本件配転命令には原告の同意を要するとの原告の主張について判断する。

(証拠略)を総合すると次の事実が認められる。

(一)  被告は附属病院のほかに青砥分院、第三分院を設置し、経営していたが、附属病院所属の看護婦、准看護婦は約六〇〇名の多数であり、毎年四月には被告経営の高等看護学院卒業者を含め、被告大学の看護婦、准看護婦として一〇〇名以上の新規採用をしていた。募集は看護婦、准看護婦と区別して行なわれ、採用試験後雇用契約が結ばれて各病院に配属されていた。

原告は昭和四八年三月に高等看護学院卒業後、看護婦の国家試験に合格し、簡単な筆記、面接の各試験を受けたあと採用され、附属病院の6A病棟に配属されて看護業務にあたっていた。

(二)  新規採用者の各科病棟等への配置に伴い、主として四月から五月及び九月から一〇月にかけて既配置者の配転が行なわれ、また退職者や産休、病欠等により各科病棟等業務に支障が生じた際には随時配転が行なわれていた。右配転は1各科の人事の交流を図る、2各看護婦らに教育上幅広い知識を身につけさせる、3各科に業務の繁閑、夜勤(手当)等の有無があり、これらの公平を図る、などを目的、基準としており、附属病院の看護業務の最高責任者である温井総婦長が各科婦長から提出された資料をもとに各看護婦らの経験年数、勤務部署についての希望、各科の業務上の必要性等を総合、検討して決定していた。

昭和五二年四月の看護婦らの新規採用に伴なう既配置者の配転について附属病院では温井総婦長が各科婦長から提出された資料等をもとに同年三月末頃同病院内看護職員らの配転のための交替名簿を作成した。同総婦長は、原告が同年四月で四年間6A病棟に勤務することになり、外科看護は習熟したと考えられること及び同病棟の高野婦長から原告を転出させるべきであるとの意見が付されていたことを考慮して原告を他に配置換えすることにし、そのほかの各科病棟からの配転予定者を決めたうえ、各科病棟に必要な人員配置を前提として前記配転の目的、基準に従がい、配転予定者のそれまでの各看護業務の経験年数や配置部署についての希望等を考慮し、新たな配置部署の看護婦、准看護婦、看護補助員の割合や経験年数等に偏りのないよう調整しながら配転計画案を決定した。その結果、原告については従来から看護婦一名を増員配置する必要があると考えられていた中材室に配転して同室業務にあたらせると共に、滅菌業務の重要性、中材室の機能等を理解させることになった。同総婦長は、同年四月はじめ、交替名簿に基づき各科婦長を通して配転予定の各看護婦らに配転予定先を伝えた。6A病棟では同月二日高野婦長が原告に対し転出を可とする意思があることを確認したうえ、中材室に配転予定である旨伝えたところ、原告は同婦長に対して、直接患者と接触して仕事がしたい、病棟での夜勤勤務もできるだけの体力があるし、日勤だけの中材室では夜勤手当の収入が減となるなどと述べて配転に応じないとの態度を示した。温井総婦長は原告が不服としていることについて高野婦長から報告を受けたものの、すでに各看護婦らに配転を内示しており、原告のみについて変更することはできないと判断して、同婦長に原告に対する中材室への配転命令を伝えるよう命じた。同月一一日同婦長は温井総婦長の業務命令であるとして原告に対して本件配転命令を伝え、更に同月一三日には本件配転命令が変更される余地はないから本件配転命令に従うよう原告を説得した。

なお同年四月には一八六名の看護婦、准看護婦が附属病院において採用され、6A病棟には四名が新たに配置されたほか各科病棟等に新規採用者が配置され、これに伴い四月から五月にかけて四八名、九月から一〇月にかけて二〇名の既配置看護婦、准看護婦の配転が行なわれた。そのほかの時期の異動及び医療事務員も含めた産前産後の休暇等に伴う一時的な配転も加えると附属病院において同年一月から一二月までの間勤務場所交替を命ぜられた者は一四〇名にのぼった。

(三)  中材室は院内感染の防止、医療器械や衛生材料の正確な滅菌及び医療の経済的効率を図ることを目的として設置された診療看護の補助的な病院内の中央施設であって注射器、ガーゼ類の洗滌、滅菌、点検及び滅菌済各種器材の格納、貸出しなどを主たる業務としている。従来医療器材の滅菌、点検、保管等の準備は看護婦の業務であったが、医療の大規模化と共に次第に看護業務も分業化、専門化され、大病院においては集中的に器材滅菌等を行なう中材室が設置されるようになり、被告の附属病院でも前記目的のもとに設置されたものであった。

附属病院の中材室には専任婦長、主任看護婦及び看護助手(整備課職員も含め一二、三名)のほか、看護婦、准看護婦が配属されることになっており、昭和四五年四月以降、同四六年八月までは看護婦、准看護婦各一名が、同月以降同四九年四月までは看護婦一名が、同年五月以降同五〇年九月までは准看護婦二名がそれぞれ配置されていたが、同年一〇月以降本件配転命令前までは准看護婦一名が配属されるにとどまっていた。同室では婦長が看護職員の勤務状況、業務の遂行等を把握し、各職員を指導、監督することになっていたが、不在であることが多く、殆んど主任看護婦が代って管理、監督業務に携っていた。看護助手が中材室の主たる業務である医療器材の滅菌、保管等の業務にあたっており、看護婦、准看護婦はそれらの業務のほか、各職員の指導、教育、器材の供給計画の作成にあたり、また主任不在の場合などの看護助手ら職員の監督などの業務にあたっていた。しかし、中材室勤務の看護婦は直接患者と接触することがなく、また夜勤もなく、椅子に座って仕事をすることも多いので病院内では病棟等勤務者に比較して責任の軽い職場と考えられていた。

(四)  原告は本件配転命令を不服として温井総婦長に面会を求め、同月六日になっても中材室に勤務せず、同月七日に温井総婦長が会ったところ、原告は中材室業務は看護婦業務としては不適である、或は夜勤手当収入が減となるなどの本件配転を拒否している理由をあげた。同総婦長は一年から二年という配置期間の示唆をしたうえ中材室業務の重要性等を説明し、減収分については救急室の夜間勤務で補わせる旨の提案をして原告を説得したが、原告は応ぜず、そのまま6A病棟に勤務し、その後の同総婦長らの説得にも応ぜず、更に温井総婦長に対し、同月一六日付内容証明郵便で本件配転の理由の説明を求めたりして同月二一日まで中材室の業務に就かなかった。

(五)  被告就業規則には「教職員が次の各項の一に該当するときは減給、出勤停止、又は降格に処する。」(第一〇一条)、「職務上の指揮命令に対し不当に従わず、再三警告を受けても之に反抗するとき」(同条一項)との定めがあるが、被告は原告が本件配転命令に従わず、五月六日以降同月二一日まで中材室の業務に就かなかったことは右条項に該当するとして同年六月七日本件減給処分を通知し、原告の六月分給与から二、〇〇〇円を減じて原告に同月分給与を支給した。

なお配転に関して被告就業規則には「業務上必要と認めたときは職員に配置転換及び職種変更を命ずることがある。」(第一五条)、「異動に際しては正当な理由のない限り之に従わなければならない。」(第一六条)、「配置転換又は職種変更を命ぜられた者は、速やかに業務の引継を行なわなければならない。この際職場の上長が之に立合うものとする。」(第一七条)との定めがある。

以上の事実が認められ、(人証略)中右認定に反する部分は採用しない。

右認定の事実及び一の当事者間に争いのない事実に基づいて判断すると、原告被告間の雇用契約は原告が看護婦としての技能、資格を有することを前提として結ばれたものであるから原告が附属病院において従事すべき業務も一般の看護婦業務というべきである。雇用契約上それ以上の特定、個別化はなされていなかったから右の看護婦業務の範囲内で被告が原告に対し配転を命ずるについては原告の同意を要しないということができる。

原告は中材室における業務が看護婦としての業務ではない、或は看護婦業務であっても特殊なものであって雇用契約の範囲外である旨主張する。成程、中材室業務の主たるものは医療器材の洗浄、滅菌、貸出し等の機械的単純労働であって看護補助業務の性格を否定できないけれども、右労務はもともと看護婦業務の一部であったものが、医療の大規模化によって専門化されるに至ったものであり、本質的には看護業務と評価しうるうえ、原告の中材室における業務は主任不在等の場合を含め、病棟勤務経験を有する先輩看護婦としての准看護婦以下職員の指導、監督などの業務も含まれていると解されるのであって、医療技術の進歩、被告大学附属病院の近代化と共に同室業務も複雑化し、多岐にわたる知識を要求されていることを考えると原告の看護婦としての同室における処遇が軽視されているともいえないのである。更に本件配転には原告に対して器材滅菌等による安全確保の重要性を認識させ、被告大学附属病院における医療の効率化、各部門の関連性を理解させるとの教育的目的も含まれていること及び就業規則で職種変更を命ずることがある旨定められていることを考慮すると原告の中材室における担当業務は雇用契約の範囲内において命じられたということができる。

夜勤手当の収入減等原告にとって意に副わない点があるとしても、被告附属病院のように極めて多数の看護職員をかかえ、各職員の各科における勤務年数、習熟度、不公平の是正等多岐にわたる点を考慮しつつ、配転がなされねばならない以上、致し方ないというほかないのである。温井総婦長が考慮した中材室における看護婦配置の必要性についても従来の同室における看護婦、准看護婦の人員増減の推移をみれば一応首肯できるし、各看護婦に幅広い知識を修得させるとの教育的目的による配転も附属病院が被告大学附属の病院であることを考えると肯ずけるものがあるから本件配転命令は被告の業務上の必要性に基づき、原告被告間の雇用契約の範囲内でなされたといわねばならない。

従って本件配転命令には原告の同意が必要であるとの原告の主張は採用しない。

三  次に本件配転命令は原告が組合員であることなどを理由になした不当労働行為であるとの原告の主張について二で認定の事実をふまえ以下判断する。

(証拠略)を総合すると次の事実が認められる。

(一)  原告は高等看護学院在学当時から新聞部員として自治会活動に積極的に参加し、附属病院看護婦となった後昭和四八年九月には被告に勤務する事務職員、看護婦らをもって組織する組合に加入した。附属病院の看護婦で組合員は原告を含め七名であったが、原告は春闘や年末要求闘争等に参加してビラ配布をしたり、集会で発言したり、各科病棟勤務の看護婦に呼びかけて看護婦職場集会を開いたり、或は組合執行委員選挙に立候補(落選)するなど積極的に組合活動を行なっていた。

(二)  附属病院の病棟勤務は直接患者に接触して看護業務にあたり、変則三交替制で深夜勤、準夜勤もあって(なお、手術室、救急室も同様の勤務体制である。)、病院内では看護婦としての責任も重く、きつい業務に属すると考えられ、生理休暇等の問題も含め、原告ら組合員から被告に対して労働条件改善の要望がなされることが多かった。

本件配転前は病棟勤務の組合員看護婦は原告のみであったが、本件配転により病棟勤務の組合員看護婦は居ないことになった。

(三)  原告と同じ時期に附属病院看護婦となった者は本件配転命令当時殆んどが学生指導係を経験し、副主任となっていたが、原告及び他の組合員看護婦は学生指導係を命ぜられたことがなく、副主任になった者もいなかった。

以上の事実が認められ、右各証言及び原告本人尋問の結果中、被告の本件配転命令は原告が6A病棟で組合活動を行なうのを制限するためになされたとの部分は臆測を述べるにすぎないから採用しない。

右認定のとおり原告は活発に組合活動を行なってきたものであるが、原告は組合員となって後三年以上も6A病棟に勤務したものであるうえ、(証拠略)と(人証略)によれば組合員であった同証人は一時体を悪くして中材室勤務を希望してこれを容れられ、その後更に病棟勤務を命ぜられたことがあったことが認められ、これらの事実に原告ら組合員看護婦が七名にすぎず、病棟勤務者がいない時期があっても被告が意図的にそのように配置したとは言い難いこと及び配転先の中材室は附属病院内の同じ看護部門に属し、昼休みや勤務時間後他の看護婦と接触するのも容易で組合活動の面から特段の不便があるとはいえないことを考慮すると被告が組合員看護婦である原告を病棟から排除し、その組合活動を制限するために本件配転をなしたとはいえない。また、二で認定、判断のとおり一応本件配転には中材室における看護婦配置の必要性をはじめとして命令を発すべき合理的理由があるから、右認定した原告ら組合員が副主任等を命ぜられたことがないなどの事情があってもそのことから直ちに本件配転も不当差別の意図でなされたとは断じ難いし、更に二で認定のとおり温井総婦長は本件配転命令についての原告の不満を聞き、夜勤手当等の収入減は救急室への夜勤で補う措置を講じてもよいと提案しているのであって、救急室に勤務することによって収入が維持されるのみならず、患者と接触し、臨床経験を積むことになり、これは本来原告自身希望していたところであるのに原告は右提案を断ったこと、中材室勤務によって通勤時間等そのほかの生活面でも不利益を被ったとは解されないことを考慮すると原告が組合員であることを理由に不当に差別する目的で被告が中材室への勤務を命じたとも言い難い。

(証拠略)と(人証略)によれば「セントラルサプライ(中央滅菌材料室)」と題する書籍(甲第一号証)は同証人の所有で同書籍には中材室に配置すべき看護婦の資質を軽視し、対人関係の悪い看護婦を配置すべきであるなどの記載があり、その箇所にアンダーラインの記入されていることが認められるが、同証言によれば右アンダーラインは同証人が記入したものではないこと、及び同書籍を同証人は中材室婦長をしていた昭和四二、三年頃同室備付けにして以後放置していたことが認められるから右書籍の記載、記入部分は本件配転命令が不当労働行為であることを推認させるに足る資料とはいえない。

他に被告が組合員看護婦である原告を差別し、その組合活動を制限することを主たる動機として本件配転をなしたことを認めるに足る証拠はないから、本件配転命令はもっぱら前記二で判断のような業務上の必要性に基いて発せられたものと認めざるを得ない。

よって本件配転命令が不当労働行為であるとの原告の主張は採用しない。

四  権利濫用について

右二、三のとおり本件配転命令は業務上の理由があり、適法なものであるからこれに従わなかった原告の行為は違法というほかなく、被告が原告に対し就業規則第一〇一条第一項の「職務上の指揮命令に対し不当に従わず再三警告を受けても之に反抗するとき」に該当するとして本件処分をしたのも被告が有する懲戒権の裁量の範囲内のこととして是認することができる。

従って、本件減給処分を権利の濫用であるとする原告の主張は採用できない。

五  結論

以上によれば、原告の主張はいずれも理由がないから、本件各請求は失当であり棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧弘二)

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